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臨帝(僕は、つかまった)


なんか思いつきで書いてた文章。
帝人は一人称が書きやすいなぁ、と実感しつつ。








憧れていた非日常はすぐそばで矛先をこちらに向けていた。
意地悪く笑うその人の伸ばす手を、僕は引き寄せられるように掴み取ってしまった。

『ようこそ』

きっとそんな簡単な言葉だったんだろう。
でも僕は日常を愛していながら日常ではない世界を見つけてしまった。


* * *


「やあ、竜ヶ峰帝人君」
わざとらしい言い方に、僕は人込みだというのに立ち止まらずにいられなかった。
あまりに急に人の流れを止めてしまい、すぐ後ろにいた他人が舌打ちをしたが気にならなかった。
それから自分を避けてまた人の川が流れていく。
取り残された僕は、その流れに初めから加わる気のない壁側のその人に言った。
「なんですか、臨也さん」
そんな僕の目に彼の薄い唇が口角を上げていくのが映る。
それが彼の策略、僕を不安と安堵の狭間へと呼び寄せる合図。
それに呑まれないように、強い意志で、彼を睨みつける。
僕に出来る、今の精一杯。
「今から時間ある?」
「ないです」
嘘、本当はある。
だけど隙なんか見せられない。
見せたら最後、僕はまた引きずり込まれてしまうから。
でもそんな考えは、とっくに読まれているようだった。
彼はただ黙って僕の前に手を出すと、口角を上げた薄い唇で僕に囁いた。
「行こう、帝人君」
ああ、だめだ。
わかっているのに、身体が僕の言うことを聞かない。
出された手を取ってしまう。
掴まれた手から伝わる温もりに、身体の細胞がまた悦びに目を覚ましてしまう。
「い……いきませんっ」
口で抵抗するけど、もうだめだ。
それを知っている僕が目覚めてしまう。
困惑する僕を無視して、この人は僕の手を握って人の波に合流していった。

そして僕は。
折原臨也、という酷く甘い闇に捕まってしまった。
この手を振り解かない限り、絡みついた闇を振り払うことが出来ないのだ。

僕を良く知る声が、僕を呼んでいることにも気が付かぬほどに、引かれるままに足を進めていた。

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