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臨帝(情報屋の独り言)

 
思いつき。
なんかポエムになった、謝る。













 月の冴える夜、手すりのないビルの屋上。
 その淵に立つ男は、一歩、一歩とまるで平均台の上を進むように歩く。
 男にはバランスを崩したら地面へ叩きつけられる恐怖などないと言わんばかり。
 鼻歌を歌いながら楽しそうに、目を閉じたままで進んでいく。
「あぁ、残念だなぁ」
 呟いた言葉に返事はない。
 しかし構わないとばかりに彼は続ける。
「君に優しく手を差し伸べると、君はその手を簡単に掴んでくるよね。だけど。今回は俺が手を出すより先に君は姿を眩ませた」
 歩みを止めて仰ぎ見れば、大きく丸い月が均等に世の中を照らしている。
 その月に片方の手を伸ばせば、いつの間にか握られているナイフが鋭い光を返す。
「君を手に入れることが、こんなに容易で難しいことだなんて思いも寄らなかったよ!」
 辺りに響く大きな笑い声。
 ひとしきり笑うとその淵から十数センチのコンクリートへ飛び降りた。
「どこに行ってもいいけど、君は逃れられないんだよ。竜ヶ峰帝人君」
 ポケットから取り出した携帯端末には帝人の写真。
「なぜなら俺は情報屋だからね。どんなに上手に隠れても、君は隠れきれないんだよ」
 ばさり、コートを翻す。
 情報屋は月に背を向けながら両の口の端を上げた。
「さぁ、ゲームは始まった。すぐに見つけてあげるからね」
 硬質な足音だけが、辺りに響きを持たせて消えた。

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