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臨帝(たなばた)


臨帝で時事ネタ(といっても実質3日過ぎた)
といっても、七夕っぽいもの(笹とか)は何一つ出てない…出たのは星だけだ。

あれぇ? どうしてこうなった。




 





 帝人は携帯電話の日付表示を見て、ふと気が付いた。
「あれ、今日って…」
 間違いない、七月七日。
 帝人が幼い頃は幼稚園とかで七夕飾りを作ったり、地元の駅前に大きな竹が飾られたりとか行事に溢れていた。
 しかし今は高校生、ましてや池袋という都会に住んでいると、そんな生活から離れていた。
 思い出したからと辺りをきょろりと見回しても、やはり七夕を感じさせるようなものは目に入らない。
 空を見上げてみても、梅雨らしいどんよりとした雲が広がっていて、今にも雨粒が落ちてきそうなだけだった。
「何か、寂しい…かな」
「なんで?」
「!?」
 独り言を言ったつもりなのに、返事が戻ってきたので、さすがに驚きが隠せない。
 見れば目の前には、見慣れた黒尽くめ。
 帝人はその姿に、つまらなそうに溜息を吐いた。
「何だ臨也さんか」
「何だ、はなくない? 帝人君」
 含むように笑うその人に「そうですね」と軽くあしらって通り過ぎようとすると、いきなり手首を掴まれた。
 進もうとした足は手からの反動を受けて、上げた足が俄かに宙で遊ぶ。
 帝人は掴まれた事を嫌がる表情で臨也を見たが、そんな視線など全く無視するようにして臨也はその手を思いきり引き寄せた。
「ぅわっ」
「今一人、ってことは暇だよね?」
 臨也は転びそうになった帝人の身体を受け止め、その耳元で楽しそうに問い掛ける。
 支えられている身体を帝人は自力で立て直そうとして足へと体重を乗せたが、その刹那、身体は帝人の言うことなど聞かずに、強引に引かれる方向に足を進めていた。
「い、臨也さん!?」
 焦る帝人に目もくれないで、臨也は強引に手を引きながら道を進むと大通りに出てタクシーを捕まえる。
 そして帝人を奥に押し込むと、行き先を告げてタクシーを進ませた。
 臨也の顔を見つめる視線に、臨也は振り返るとニッコリと笑う。
 この強引さに、帝人は諦めるように溜息を吐き出すと車窓をぼんやりと眺めたが、気になることが一つだけあった。
 それは今しがたタクシーの運転手に告げた行き先だ。
 臨也の拠点である新宿ならともかく、この池袋内にある有名な建物。
 行き先は、すぐそこに見えていたサンシャイン60だったのだ。
「臨也さん、一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「サンシャインなら歩いていけますよ?」
「知ってるよ?」
 じゃあ何故、と思った矢先に車窓を流れていったのは見覚えのあるバーテン服姿の男。
 それを視線で追うと同時に、隣にいた臨也の口からはその男の名が告げられた。
「歩くとシズちゃんに会っちゃうからね」
 その一言に納得せざるを得ない帝人。
 そしてタクシーはただ周辺をぐるりと回っただけで、すぐにサンシャインの横で止められた。

 タクシーを降りると、サンシャインの中に入る。
 何の目的があるのかわからない帝人が臨也に聞こうとした時、臨也の足が急に止まった。
 目の前にあるのは、プラネタリウム入口。
 そこには七夕に因んだ催しがあることを知らせる立て看板があり、そこに書かれている文字を帝人が声に出した。
「カップル限定……」
「俺と帝人君じゃ、ちょっと違うからそのイベントは無理でしょ」
 笑いながら臨也はチケットを2枚買うと、帝人の手を引いて中に入り、帝人を座らせるとすぐ横に自分も腰掛けた。
 一息付く間もなく、室内は徐々に暗くなり無数の星が浮かび上がる。
 帝人はそれをただ黙って見ていると、耳元に温かな息が吹き掛けられ、思わず大きく身体を震わせた。
 何事かと驚いて隣を見れば、臨也が潜んだ声で話し掛けた。
「七夕ってさ、俺らみたいじゃない?」
「は?」
 言わんとする意味がわからず素っ頓狂に聞き返せば、すぐに答えが返ってくる。
 それは帝人には到底予想が出来る答えではなかった。
「俺が彦星で、君が織姫。いつも真ん中で逢瀬を邪魔してる天の川がシズちゃん」
「…? 意味がわからな、ンッ!?」
 帝人の言葉は臨也の唇が塞いでしまい、それ以上を紡がせない。
 唇はあっさりと離れたが、帝人はパクパクと口を動かしていると臨也は自分の椅子に戻り帝人に小さな声で話し掛けた。
「ほら、夏の大三角形だ」
 臨也の言葉を追うようにして、アナウンスは織姫と彦星の物語を語る。
 そして臨也は顔だけを帝人に向けてクスクスと笑いながら言った。
「暗くてよく見えないけど、きっと今、帝人君の顔はすっごい真っ赤なんだろうねぇ」
 からかうような台詞に、帝人は思わず臨也に手を上げようとするが、その手は簡単に捕まって指にも唇が落とされた。
「静かに。周りの人に迷惑だよ」
「…なっ、誰のせい…っ」
 帝人の怒気を含んだ声はシッという小声に諭され、それ以上は何も言えなかった。

 室内の静かな空間の中で臨也と帝人は手を繋いだままで擬似の満天空を眺めていた。

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